本って、ほんと、難しい。
何が難しいかって?
私が読書嫌い?いや大好物ですよ。ビジネス書・技術書で、月に4〜5冊読んでいます。
じゃあ何が難しいか。それは、自分が「読むべし、仕事に必要!」って思った本を、相手に「それじゃ読もうか」と思わせること。そして実際に読み始めてもらうのがホント難しいんです。
逆でもそうです。「いいよこれ」って、貸してもらってもなかなか読めない。どうしてなんでしょうか。自分で見つけた本ならすぐ読めるのに。フシギです。
さて今回、猛烈に人に勧めたくなった本がコレ。「The DevOps 逆転だ!」
もしあなたがエリヤフ・ゴールドラットの「ザ・ゴール」をご存知なら、それのDevOps系続編と思っていただければバッチリです。あの本も550ページ超、0.5kgと、喧嘩の武器としては電話帳に匹敵する本ですが、こちらもページ数こそ400ベージなものの、紙質が良いせいか重量はほぼ同じ0.5kg。(なのでKindleで読むのがお薦めです)
DevOpsは少し学んでわかったつもりで居たのですが、この「The DevOps 逆転だ!」を読んで、その思想の根本、根っこも根っこがわかった実感が湧きました。
「ザ・ゴール」をご存じない方、実はこの本、小説です。
小説です
そう、普通の技術書ではないんです。これ。
「ザ・ゴール」のシリーズも小説です。でもそれはTOC(Theory of constraints:制約条件の理論)の本質を勘違いなく、しっかりと叩き込むために小説でまとめられました。この「The DevOps 逆転だ!」も同じです。DevOpsが体に染み込むように理解できるよう、全体の3分の2かそれ以上をかけてシステム運用のデスマーチを書いています。その中で次第に明らかとなっていくDevOpsの本質。
主人公は、日本企業で言うところの課長レベル?から担当取締役に抜擢。ただそれは能力を認められてではなく、前任者が辞めてしまったから。しかも2階層同時に。当然引き継ぎなどある訳もなく、更に負の遺産が。
次々と発生するトラブル、迫る期限、落ちる一方の売上、ノーと言えない立場、やがて浮上する難敵。そして突如現れる謎の男…。
ザ・ゴールと同様、工場を持つ企業が舞台ですが、メインはシステム部隊。システムの開発、運用に数百人が従事していて、イントラにサーバはあるものの、仮想化された環境で業務システムは稼働しているという、今どきの企業。一人なんでも知ってるインフラエンジニアがいて、作業チケットが山盛りに停滞している中で新システムのリリースが…。
リリース直前なのにデプロイもできないし、直前まで修正がコミットされ続ける有様。リリース延期を進言しても「広報しちゃったし」という理由でデスマーチ続行。一部の機能がアルゴリズム的に超イケテナイ感じでシステムはむちゃくちゃ重く、データ移行を始めたら数日かかるくらいに遅い上、途中で止めるとデータが壊れると判明し…。
ああ、胃が痛い。読んでるこちらの胃が痛くなります。
そういえばこの本、原著と日本語訳と表紙が全然違うんですよ。
ご覧の通り。個人的には原著の表紙絵の方がいいなあと思います。
この本が伝えたいこと
おっと忘れてました。この本が伝えてくれること。
①TOC(制約条件理論)はITの現場でも重要
「ザ・ゴール」を素直に読むと、TOCは工場の組立ラインのような単純化可能な業務(と主人公が勝手に思い込んでいるもの)にしか適用できない、そう思うかもしれません。しかしこれは誤りであって、IT、更にはIT運用にもしっかり適用でき、意味があるものと教えてくれます。
工場でのボトルネックは機械でしたが、この話のIT運用でのボトルネックは人でした。ボトルネックは、遊ばせない、無駄なことはさせない。そしてボトルネック部分を100%稼働させることで全体のパフォーマンスが向上するという点は同じです。
②スクラム、カンバン、リーンは役に立つ
ネタバレしすぎても良くないので端折りますが、トヨタのカンバン、リーン開発についてもいろいろ出てきます。
自分の中でTOCも混ざってしまっているのですが、バッチサイズ縮小や、WIP制限など、「ああアレの事か」と思うことがいっぱい出てきます。
③「仕事」とは何か
4つのタイプがあるとエリックは言います。
- ビジネスプロジェクト (ビジネスの要請で行われる)
- 内部プロジェクト (IT運用上発生する業務)
- 変更対応 (既存環境をプロジェクト等の要請により行う)
- 予定外対応 (障害など突発への対応)
④3つの道とは何か
道(情報や業務の流れ:フローと言って良いでしょう)は以下の3つが必要と言います。
- 業務遂行の道:開発から運用に向かう順方向の流れ
- フィードバックの道:運用から開発へ回帰する流れ
- 継続の道:業務遂行、フィードバックをよどみなく推進させる流れ
DevOpsでよく見る、こんな流れを作れ、ってことですよね。
⑤顧客の本当に必要としているものを知る
漫然と要求されている業務に対応する、それがIT運用によくある姿です。また、「前からやっている事」は変えてはいけない、よくわからないけど続けなければならない、これもIT運用によくある姿。でも、相手によく聞いてみると、「毎月もらってるから、それが当たり前だと思っているけど、実は中身はよくわからないし、ファイリングするだけ」といった資料を作成するのに5時間を費やしていたりします。
顧客(社内社外問いません)が困っていることを聞くと、「そんな事に時間をかけるくらいなら、もっと必要としている情報を出してほしい」と言われるかもしれません。
⑤1日に10デプロイ
一ヶ月に1回のデプロイ(リリース)でも大変と思われていたものを1日に10回やるためにはどうすればよいか、極端に制約されれば人は極端な発想で奇策を思いつきます。そして自分で自分の頭の中のタガを外していくのです。1日10デプロイできればなんと素晴らしいことか。どうすればそれが可能となるのでしょうか。
まずすべきは自動化。デプロイまでの各種作業を自動化していくのです。それに伴い手作業によるエラーが減り、そして自動化のために手順が整備されていきます。そして仮想化の恩恵もあり、環境の準備も自動化され、環境ごとに動かない、エラーが出るといった事が減っていきます。もちろんテストも可能な限り自動化されていくことで、デプロイに必要な時間が短縮されていきます。
これにより開発環境も恩恵を受けることになるのです。仮想化を使って環境が統一され、新しい開発者はすぐに皆と同じ環境が利用でき、手元の環境で動いたのに周囲やIT運用で動かない、コンパイルできないと文句を言われることもなくなるのです。すばらしい。
これで、仕事の「変更対応」が減るのです。
また、ソースコードはGITやSub Versionのようなリビジョン管理システムを使う必要が出てきます。そこにデプロイに必要な情報一式が保存され、リビジョンで管理されます。これによりソースコードが古くてビルドできない、ビルドに必要なファイルを渡し漏れた、などが一掃されます。
そして1日に10回もデプロイできるようになると、開発方法、そして運用方法が変わってきます。A/Bテストも容易に実施でき、不具合対応もすぐ可能です。更には1回ごとにリリースする機能を絞り込んでどんどんリリースできるので、不具合が発生するリスクも減っていき、万が一不具合があってもその原因がすぐ判明します。
これらにより、仕事の「予定外対応」がどんどん減っていき、本来の「ビジネスプロジェクト」「内部プロジェクト」に時間を使えるようになります。本当にすばらしい。
⑥ITは単なる一部門ではない。コアコンピタンスだ。
会社はIT部署を、その特性もあり、一括りにして部門に押し込んでしまう。それは当然の事だと思いますし、私にも異論はありません。
が、しかし、ITそのものは企業の血液のようなものであって、隅から隅までに関わり、情報を伝え、企業を支えるものなのです。企業全体でITを活用し、力に変えていく。コアコンピタンスとするのです。当たり前のようですが意外にできていない事だと思います。
部門の中に閉じこもって受け身に仕事をするのではなく、企業全体を見渡し、そこかしこで情報が詰まって困っているのを解決していく、運用とはそうあるべきと、この本は言っている気がします。
「ザ・ゴール」至高の一冊
最後に、私がビジネス書に本格的に飲み込まれたきっかけである「ザ・ゴール」の事を簡単にお話します。
「ザ・ゴール」はエリヤフ・ゴールドラットのTOC小説の最初の一冊で、先にお話したとおりかなり分厚い一冊です。ただ小説の形を取っているため、非常に読みやすく、読書慣れしていなかった私は、確か週末にずーっと読み続け、18時間くらいかけて一気読みした記憶があります。
それくらい面白く、惹きつけられた一冊です。この本はシリーズ化されており、それぞれに面白い小説となっていますので、お時間があるときに読まれてはいかがでしょうか。オススメです。
本読んでますか?
現代社会は、目を奪い合う戦争と言われています。王座に居たテレビがスマホに追われ、NETFLIX、Hulu、Amazon Prime video、Youtubeは大きいTVの画面もスマホの画面も我が物として捉え、スマホの残りの画面はゲームやSNSで満たされています。
通勤時間で本(含むマンガ)を読む人をあまり見かけなくなって久しいですが、これはやはり「満員電車でスマホ以外見れない」「わざわざ通勤に重い本を持ち歩きたくない」といった事なのかと思います。だからこそ電子書籍!スマホで見るのは厳しいですが、ファブレット(小さめのタブレット)やタブレットなら、拡大縮小も可能ですし、本はデータで何冊でも持ち歩け、読書にはぴったりです。
「読書に勝る勉強法なし」「本はそれを書き上げるために何ヶ月も凄い人が知恵を絞っている。それをたった数千円で買えるなんて素晴らしい。」なんて言われてたりします。本を読まないなんてもったいない、そう思います。
もしあなたが誰かから「これ面白いよ」と言われたら、まず数ページ読んでみてください。そこに運命の出会いが待っているかもしれませんよ。